睡眠を科学する
「睡眠を科学する」研究所で快適寝具を開発
西川では以前から、感覚ではなく、多面的にデータを収集・分析した科学的根拠に基づいて質を高める商品開発の重要性を認識していた。そのような中、1984(昭和59)年、「睡眠を科学する」というコンセプトを掲げて日本睡眠科学研究所を東京オフィス第二ビル7階に開設した。
当時東京工業大学工学部長の清水二郎教授や東京医科歯科大学の井上昌次郎教授などの協力も得て、研究体制を構築。研究所内には、環境による睡眠状態の変化や寝床内環境などの観察・研究に向けて、温度0~40℃、湿度40~80%の室内環境をつくり出す「睡眠測定室」や、温度20℃、湿度65%の一定室温・湿度環境をコントロールでき、JIS規格の条件も満たす「温熱測定室」などを完備し、社員が被験者となって基礎データを収集して新商品の開発を進めた。この基礎研究が新商品開発の基礎となり、快適寝具を次々と生み出していったのである。
まず、研究所設立翌年の1985年に、「スリープα」を発売した。「快適寝床内気象33/50の理論値」を実現するためのコンポーネントタイプの寝具である。「33/50」とは、「快適な睡眠を得るために理想的な寝床内環境は、温度33℃±1℃、湿度50%±5%である」という理論値で、その理想的な寝床内環境に近づけられるよう、その時々の条件で寝具を組み合わせられるのが「スリープα」の特長であった。これは科学的な裏付けを持った初の商品で、以後、研究所は西川の商品開発の中核を担い、寝具業界をリードしていった。
2019年2月、西川三社の統合に伴い、旧・西川リビングの睡眠環境科学研究所、旧・京都西川の睡眠環境研究室を旧・西川産業の日本睡眠科学研究所へと集約した。
睡眠科学やライフサイエンスの視点から、寝具の進化をサポートし、時代とともに変化するライフスタイルや環境問題など社会の要請にも応えるべく、産・官・学各界の著名な先生方とも共同研究を推進している。
海外ブランドとの提携からオリジナルブランドの強化へ
寝具業界では、1970年代に「デザイン革命」が起こったが、その先駆けとなったのが当時の西川五郎社長(旧・西川産業)であった。西川五郎社長が、パリのエマニエル・ウンガロのデザインを寝具に取り入れるため1971(昭和46)年にデザイン提携し、その後、旧・西川産業は次々と海外ブランドと提携していった。
海外ライセンスブランド商品は、百貨店でのギフト商品として人気が高く、ピーク時の1997(平成9)年には、旧・西川産業の売上高におけるライセンスブランド商品の構成比は44%を占めていた。売上高における百貨店構成比が45~50%であった当時、海外ブランド商品は旧・西川産業の主力商品となっていたのである。
ところが、生活スタイルの変化にともない、ギフト市場の主流だった冠婚葬祭用の返礼ギフトが次第に少なくなり、パーソナルギフトのシェアが拡大してきた。1997年の返礼ギフト対パーソナルギフトの割合は約8対2であったが、2007年には約6対4となった。このような百貨店での返礼ギフトの低迷にライセンスブランドの契約終了なども重なった旧・西川産業は、自社ブランド商品の開発を強化推進していった。
科学的根拠に基づく商品開発に加え、1957年のグッドデザイン賞創設以来、104件の受賞を誇るデザイン力と、日本睡眠科学研究所が主催する専門知識講座に合格したスリープアドバイザー・スリープマスターによるコンサルティング販売力など、旧・西川産業の総合力を生かして独自ブランドの確立を図った。2015年には、売上高に占めるオリジナルブランド商品の構成比を85%まで高めている。